『ユービック』読了。

やはりSFは読み終わるのが速い。多分情景描写とか結構すっ飛ばして読んでるからだろうね。
とりあえず内容をおさらい。

 能力者に対抗する力を持つ不活性者を派遣する会社「ランシター合作社」の監視していた能力者がいっせいに姿を消した。同時に一つの案件が持ち込まれる。月で船を建造している施設に能力者が紛れ込んだためそれに対処して欲しいということだった。この二つの出来事につながりを感じたランシター、そして測定技師のジョー・チップは最高の不活性者11人とともに月へ乗り込む。しかしそこに待ち受けていたのは能力者側の仕掛けた爆発だった。被害を被りながらも無事地球へたどり着いた一行だが、そこから不可解な現象に見舞われる。時間の退行と不思議な貨幣、衰退し朽ち果てていく仲間たち、そして随所に現れるユービックという謎のスプレー。生存の可能性を秘めるユービックを求めながらジョー・チップは退行する世界をさまよい、ランシターの生地、1939年のデ・モインにたどり着く。そこで明かされる仲間の死と時間退行の原因。彼らは爆発により既に死亡し、半生命状態でモラトリアムの中で眠っているのだった。そして仲間の命を奪うのは同じく半生命状態のジェリーという少年。彼は特異な能力で同じ半生命状態の人間の命を喰らい、自身の栄養としているのだった。そしてそれに退行できるのは、ランシターの死んだ妻、エラ達が開発したユービックというスプレー。半生命としての寿命も尽き次の命へと向ったエラに代り、ジョーはユービックを手にジェリーとの戦いを始める。

なんだか、こう書くとすごい微妙な胡散臭いSFに見えてくるから不思議だ。
他のディック作品と同様、並行するというかそれぞれ違うベクトルで進行する複数の世界の交錯が描かれていた。現象学的なところがあるけど、能力者、普通人、不活性者の三すくみの世界である生者の世界と、半生命の世界、そしてジュリーの構築する世界。しかし、最後、ランシターが体験するジョーのコイン現象を考えると、あるいはランシターすら死んでいて生者の世界というものすらないのかもしれない。

そして気がついてみると、五番街の古銭屋の陳列窓の前に立っていた。もう流通していない合衆国発行の金貨を眺め、それを自分のコレクションに加えられるかどうかを、懐と相談しているところだった。

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