『ローズウォーターさん あなたに神のお恵みを』
一年前くらいに読んだ感想。
ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464)
- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1982/02/01
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 153回
- この商品を含むブログ (91件) を見る
ヴォネガットのアイロニーと優しさが存分に発揮されている。p31などにあるトラウトのSF、p124から始まるエリオットが書いた小説などは実にユーモアたっぷりの皮肉。そしてエリオットの一言一言が、その純粋さ故に受け手にはアイロニカルに聞こえてしまう。愛情たっぷりの言葉の数々。
「こんにちは、赤ちゃん。地球へようこそ。この星は夏は暑くて、冬は寒い。この星はまんまるくて、濡れていて、人でいっぱいだ。〜略〜君たちがこの星で暮らせるのは、長く見積もっても、せいぜい百年ぐらいさ。ただ〜略〜なんてったって、親切でなきゃいけないよ」
-p146
物語最後のせりふ。すべての財産をローズウォーター郡で、エリオットの子供だと主張している子供たちに相続させるという判断をした後。
「生めよ、ふえよ、と」
悲しいことに世の中は実際に、ムシャリやローズウォーター議員、そしてピスコンテュイットの住人のような人々があふれているし、ローズウォーター郡のみすぼらしい生活が放って置かれている。冨が分配され平等な世の中なんてものはない。実際にエリオットが最後に取った行動が起こると、人々はその恩恵に甘え、より怠惰になるだろう。利権にしがみついたり、補償に頼ったりしている人たちを見るとそう思う。完全に他者から与えられた安定は、自身の向上とは両立し得ない。一方努力を知って得た安定は、より向上を望む。
果たして努力と結果を評価する基準は、優しさを向ける方向は、今の世の中の流れで間違ってはいないのだろうか。