美術館に行く夢を見た。
空には大きな丸い月が浮かんでいる。私は半透明な影の染込む切り立った崖に背中をつけてそろそろと細い道を進む。途中幾度も足元が崩れそのまま足を滑らす。しかし不思議と落ちた先の、さらに細い足場へ吸い込まれるようにふわりと着地する。これが美術館への距離を確実に縮める方法なのだと確信する。
中越しに建物が感じられると、私の体はすべるように崖を登り、荒涼とした広場へとたどり着く。広場の中央には枯れた木が一本生えている。その奥には予想通りの城が建っており、門は開かれている。私は門を抜ける。今日こそ出会えるのではないかと期待しながら。
果てしなく長い回廊へと足を踏み入れる。薄暗い回廊の先は影に吸い込まれている。背後の入り口もすでに遠くへかすみ、足元には南国のフルーツのようにカラフルな絨毯が四方にどこまでも敷きつめられている。両脇には柱が等間隔に連なり、柱と柱の間の壁には黒いカーテンがかかっている。顔を上げて見上げることはできないが、天井も高いと知っている。その上にある寝室には、私が何年も眠ったままでいることも知っている。すこし苛立ちを覚えるが、今それは問題ではない。
広間の奥へと向かっているのか、または中央へ向かっているのか、しばらく進むと女性が現れる。私は見向きもせずにすれ違い、目的の絵を探してさらに進む。すると先ほどの女性が後ろ向きに立っている。しばらくその後姿を眺め、正面に回ってみる。私は、この女性がそうなのだ、とわかる。しかし、彼女は一向に私の方を向こうとはしない。夜空の月のように、回りこむ私へは背中しか向けないのだ。彼女の正面を求めて周回運動を繰り返した後、私は目を回し、辺りは暗くなる。