『ローズウォーターさん あなたに神のお恵みを』読了-11/9

(出)早川書房《文庫SF》
(著)カート・ヴォネガットJr(訳)浅倉 久志

ASIN:4150104646
古本屋で買ったのは確かだが、どこで買ったのか、いくらだったのか、いつだったのかは不明。読み始めも不明。恐らく11/1?〜読了11/9。

 なんというか、今の僕の言葉では語りえない物語だった。ヴォネガットアイロニーと優しさが存分に発揮されている。P31などにあるトラウトのSF、P124から始まるエリオットが書いた小説などは実にユーモアたっぷりの皮肉。そしてエリオットの一言一言がその純粋さから受け手にはアイロニカルに聞こえてしまう愛情たっぷりの言葉の数々。

「こんにちは、赤ちゃん。地球へようこそ。この星は夏は暑くて、冬は寒い。この星はまんまるくて、濡れていて、人でいっぱいだ。〜略〜君たちがこの星で暮らせるのは、長く見積もっても、せいぜい百年ぐらいさ。ただ〜略〜なんてったって、親切でなきゃいけないよ」

-p146

 物語最後のせりふ。すべての財産をローズウォーター郡で、エリオットの子供だと主張している子供たちに相続させるという判断をした後。

「生めよ、ふえよ、と」

 悲しいことに世の中は実際に、ムシャリやローズウォーター議員、そしてピスコンテュイットの住人のような人々があふれているし、ローズウォーター郡のみすぼらしい生活が放って置かれている。冨が分配され平等な世の中なんてものはない。社会主義は見事に崩壊したし。稀有な全体主義国家日本も、最近ではもう個人主義が暴走している。実際にエリオットが最後に取った行動が起こると、人々はその恩恵に甘え、より怠惰になるだろう。利権にしがみついたり、補償に頼ったりしている人たちを見るとそう思う。完全に他者から与えられた安定は、自身の向上とは両立し得ない。一方努力を知って得た安定は、より向上を望む。
 果たして努力と結果を評価する基準は、優しさを向ける方向は、今の世の中の流れで間違ってはいないのだろうか。