『旅の日のモーツァルト』読了。
- 作者: メーリケ,宮下健三
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1974/11/18
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 3回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
とても暖かいというか、ほのぼのとした雰囲気を感じた短篇。『ドン・ジョヴァンニ』初演の為、ウィーンからプラークへ向かう途中のシュレムスという辺りで出会った伯爵家との交流の話。別にモーツァルトもメーリケも貴族ではないけど、なんだか貴族的な余裕、要は「優雅さ」みたいなものが根底に流れているのかなと。実にゆったりと時間が流れているが、それでいてダレない(まあ、回想の階層とか、結構うんざりした部分もあるにはあった……)。実際、短い話なのでカラム充填の間ゆっくりと読んでいたが、早くページをめくりたいというような面白さではなく、情景を想い、頭の中で観て聴き、それを遊ばせて味わいながらじっくりと読み進めていくと言った具合で、久しぶりに景色を堪能した小説だった。同時に、モーツァルトの悲劇性のメタファーとしての『ドン・ジョヴァンニ』が実にしっくりきていて、「貴族的な余裕」との対比としてみると面白かった。
解説が結構親切でかなり興味深いが、特にこの小説の音楽的な構成という部分の解説が面白い。無邪気な感じのイントロ、前半主に馬車の辺りはマイナー調、中盤でメジャー、後半にマイナーでサビ、そしてラストはホッコリとしたメジャー、というふうな具合に、まあつまり感情線が古典音楽的な感じであると。そう考えると、例のちょっとうんざり気味だった「回想の階層」なんかは、ある一つのメロディが更にもう一つのメロディを生み、そしてそれが展開し発展して盛り上がるみたいな感じはある。
詩的な美しさ、感動をちょっと受けた小説でもある。メーリケの詩集なんか読んだら面白そうだ。「詩人メーリケ」のファンになりそうな予感。