世界設定がいまいちわからないけど、とりあえず今住んでいるところに住んでいる。
どうやら戦争が勃発したらしく、きな臭い情報が入ってくる。空は晴れ渡り日がさんさんと照っていたが、僕は鎧戸を閉めて部屋に閉じこもる。
少しして外から喚き声や嬌声が聞える。スリルを味わおうと鎧戸をほんの少し開けてみる。
外には笠をかぶった人々の往来が出来上がっていた。相当混みあっている。部屋が2階なのでその様子を上から眺める。どうやら笠には赤と白の2種類があって、その色で敵味方の判別をしているらしいが、皆一般市民なのか敵対している様子は無く、赤は右から左へ、白は左から右へ、行商人の群れのようにおしゃべりしながら何かを背負って移動している。僕はその景色に圧倒されつつ思う。僕はどちら側なのか。そしてもっとよく見ようと鎧戸を全開にしてしまう。
しばらくガラス戸越しに眺めていると、なぜか彼らは僕の部屋のベランダにも往来しはじめる。通り過ぎる赤い笠の人々。どうやら全員が一般市民と言うわけではなく、中にはやはり兵士(戦国時代的な)の姿も見える。相変わらず太陽は猛烈に光を放っている。その太陽のおかげか、ガラスが鏡のように上手く反射しているようで、ガラス戸越しに見ているこちらの姿は彼らには見えない。そこへ赤い笠をかぶった一組の母子が現れる。
母親はまだ若く、子どもも小さい。そして二人とも美しい。例によって彼らは左から右へと歩いていく。しかし、疲れきっているのか足元がおぼつかずガラス戸に手をついて歩いている。ガラス戸の鍵を閉め忘れていたことを思いだした僕は、母子が手をつき戸を開けてしまうのを恐れ、必死に戸を押さえている。
僕は隠れていなくてはいけない。
僕は巻きこまれたくない。
母子は今にも倒れそうな足取りでこちらへ歩いてくる。その母子のあまりに悲壮な姿が見ていられなくなる。
僕は往来が途切れた一瞬を見計らってガラス戸を開ける。そして、有無を言わさず母子を部屋に引き入れ、急いで戸を閉める。ガラス越しに辺りを見回し見られていなかった事を確認する。
母子を見る。疲れすぎている。感謝も驚きもその美しい顔には見てとれない。虚ろである。
僕は二人をベッドへ寝かせ、鎧戸をそっと閉める。
二人を残し一階の居間へ向かう。そこには僕の両親が普段どおりの生活をしている。ソファにすわりテレビを眺める。
僕の母親が口を開く。「お姉さん、フェリーで帰ってくるんだって。ちょうど遠出してるところに戦争だから、飛行機の席取れなかったみたい」
「へえ」と僕は言う。
姉も姉で大変である、と僕は思う。そしてさっき助けた母子のことはバレていない。


ここで目覚める。